下の記事を書かれた、北原雅樹先生、鍼を使って、疼痛治療をされています。
日本の痛み医療は、欧米より20年以上も遅れているといわれています。
トリガーポイント療法は、長引く痛みでお困りの方に、お役に立てるかもしれません。
当院は、筋膜性疼痛症候群(MPS)と呼ばれる、ありふれた痛みがあることを、一人でも多くの人に知ってもらうために、情報発信を続けています。
https://medical.jiji.com/topics/381?page=1
―慢性痛とはどういう痛みを指すのか。
北原 世界保健機関(WHO)が作った国際疾病分類(ICD)は10年ごとに改訂され、登録済みの疾病の見直し、新たな疾病の追加が行われる。来年の改訂に向け、慢性痛の登録を新たに決定。「3カ月以上続く持続性または反復性のある痛み」と定義された。
慢性痛については、専門家の間でもかんかんがくがくの議論があり、患者本人も本質を理解していないことが多い。痛みには胃潰瘍、急性胃炎、骨折など組織の障害に起因する「急性痛」と、頭痛や腰痛、リウマチ、線維筋痛症など原因が分かりにくい「慢性痛」がある。
慢性痛は組織の治癒期間を終えても続く。最終的に脳でさまざまな情報が統合(処理)されて痛さを感じる仕組みで、痛みによって起こる障害に対処しなければならず、急性痛の治療とはアプローチがまったく違う。
―急性痛と慢性痛の対処法は
北原 急性痛では、原因の病気や障害を治しやすくするため痛みを軽減する処置を取る。安静にしたり神経ブロックを行ったり、薬物療法などでも痛みが治まる。診断結果により治療法が大体決まっており、治療に伴い痛みは軽減される。しかし慢性痛は原因が分からず、手を尽くしても何も改善しないとして放置される場合も少なくない。
―慢性痛は何が原因か
北原 急性痛は同じ胃痛でも、胃潰瘍と胃炎では全く治療方針が違う。急性痛の場合、診断名は大変重要だ。慢性痛は生活習慣病から来る痛み、疾患による痛み、処置に伴う痛みなどがある。すべてが混合性疼痛(とうつう)で、ほとんどの場合、痛みに対する治療方法は同じだ。痛みの状態を見て医学者が無理やり診断名を付けているにすぎない。患者は病名を知りたがり知ることで安心するが、一般の診断名と痛みの原因が違うことも少なくない。重要なのは、痛みが明らかな原因がある急性なのか、そうでない慢性かを診断することだ。
―慢性痛の治療法は
北原 日本に慢性疼痛のガイドラインはない。放置される慢性痛のうち、一番多いのは筋肉の痛みだ。混合性の痛みだが、軽度なら不自然な姿勢で仕事をしない、軽い運動をする、減量、睡眠3~4時間前からの飲酒はしないことなど日々の生活で改善、予防ができる。簡単なことだが、患者もかかりつけ医も知らないのは、情報が広く伝わっていないからだ。慢性痛は我慢すれば治ると思われがちで、積極的に治療が行われてこなかった。
私が行っている治療は、運動療法や心理療法が中心。筋肉痛には東洋医学のはりを使用した筋肉内刺激法も取り入れた。麻酔科医だけでなく、精神科医、リハビリテーション医、理学療法士、臨床心理士など、複数の医療者が治療を行う集学的な治療が、慢性痛治療の標準的なモデルになっている。
―日本の慢性痛治療は遅れているのか。
北原 国際疼痛学会(IASP)は2010年、「患者が痛みに対する適切な治療を受けることは基本的人権である」などとするモントリオール宣言を採択した。つまり痛みの診療は行政や医療機関の義務ということだが、日本では注目されず、翻訳もされなかったので私は自分で訳した。
痛みセンターの草分けは米国で、1961年に朝鮮戦争の戦傷者や急速に進む工業化によって激増した労災患者への慢性痛対策として始まった。70~90年代に米国全土に広がり、欧州諸国にも拡大した。しかし2000年代に入ると米国の痛みセンターは経営的に成り立たず閉鎖、解散されたが、欧州ではさらに発展し、各国が医療費抑制を目的に医療保険システムの中に位置づけた。国全体でシステマチックに実施し、コストパフォーマンスが高いシステムになっている。
日本は以前、大学病院でもペインクリニック科は機能していない名ばかりなところもあった。私のいる横浜市大は外来診療を毎日行うが、毎日行う施設は少ない。痛みセンターは全国十数大学に設置されているものの、IASPの基準を満たしているところは少なく、人材も資金も大幅に不足している。世界各国で痛みセンターがどんどん広がっている中、先進国では日米だけが取り残されている。
―日本の慢性痛治療はどうあるべきか。
北原 痛み治療は臨床面だけがクローズアップされがちだが、複雑な痛みの治療は臨床と研究が一体となる必要がある。調査結果をフィードバックし、さらに加速する超高齢社会の中で、慢性痛を抱える高齢者の診療をシステマチックに行う痛みセンターを国内につくることが急務だ。重症患者の治療だけでなく、予防も行い、健康寿命を延ばすことも期待できる。次世代の専門家育成も重要な課題だ。
臨床・教育・研究のほかに、行政、総合診療医、一般市民などへの情報提供・PRも、欧米の痛みセンターでは大きなウエートを占めている。
2025年には65歳以上が3600万人、稼ぎ手が減少し、日本は経済的にも貧しくなる。慢性疼痛患者は現在2000万人。経済的損失は数兆円といわれている。痛みセンター設立には立法化を含め、さらなる展開が必要だ。患者会やマスメディア、SNSなどで、関心を高めて多くの人たちが声を上げていくことが望まれる。
カテゴリ:痛み痺れ
ebara / 2018年02月13日(火) 15:24